【FF7】だれにも内緒で

 

エッジの雑踏を、不思議な組み合わせの二人が歩いていた。
一人は長身の、赤いマントを纏った長い黒髪の男。そしてもう一人は栗色の髪をピンクのリボンで束ねた幼い少女だ。跳ねるような足取りで歩く少女が先に立ち、男の手を引いている。
男の方は流れのハンターらしいかなり威圧的な見た目をしているが、少女はまったく臆していなかった。かなり上方にある男の顔を振り仰いでは、屈託のない笑顔でしきりに話しかけている。どうやら彼女の方が、街を案内しているらしい。

「おみず屋さんね、ケガしちゃったんだって。いつもはお店まで配達してくれてるの」
「そういうことか」
「うん。ティファが『今日はぎりぎり、足りるかなー?』って心配そうだったの。だから、ヴィンセントが来てくれてよかった!」
「役に立てて光栄だ」

男の表情に全く変化はなく、少女へ返答する声もそっけないものだ。しかし、どうやら単純に不愛想であるだけなのだろう。少女の小さな歩幅に合わせて歩き、少女が口を開くたび生真面目にそちらへと顔を向ける男の様子からは、その見た目に寄らず穏やかな性格が伺えた。
男は少女から気を逸らさない。そしてときおり、ごく自然に辺りを見回した。街中であれども警戒を怠らないその姿勢は誰にも気づかれることなく、それゆえに、男の高い力量を示していた。

 

 

 

客層の関係でさほど高い酒は置いていないセブンスヘブンだが、水には気を使っている。水割りやロックの氷、チェイサーに使われているのはエッジで一般的な水道水の湯冷ましではなく、店主のティファが吟味したミネラルウォーターだ。アイシクルなどの高名な輸入物ではないものの、口当たりがやわらかく酒の味を変えない自然の湧水を定期的に購入しているのだという。
その”おみず屋さんへのおつかい”にヴィンセントが駆り出されたのはまったくの偶然だったが、ヴィンセント自身にも特に否やはなかった。彼を駆り出した方であるマリンは、珍しい同行者に上機嫌だ。
血縁とも見えない組み合わせに街ゆく人々はしばしば視線を向けていたが、マリンの楽し気な様子によってか幸い怪しまれることもなく、二人は目的の店へと到着する。

「ごめんくださーい、セブンスヘブンです! お水の受け取りに来ました!」
「はいはい、ティファちゃんから連絡貰ってるよ。わざわざすまないね」

ギプスに固められた足を引きずりながら出てきた店主は、堂々と名乗ったマリンへにこやかに応対した。その隣に控えたヴィンセントを見、一瞬驚いた様子を見せる。

「おや、てっきりクラウドさんが来るかと思っていたよ。かなり重いが、大丈夫かね?」
「問題ない」

用意されていた大きなタンクを一瞥し、ヴィンセントは頷いた。マリンが代金の封筒を手渡すと、店主はよたよたと動きづらそうにレジへと歩いていく。

「ねぇヴィンセント」
「マテリアか?」
「持ってる?」

見上げてくるマリンに、ヴィンセントは頷いてみせた。神羅が倒れた今、人工マテリアの供給はないに等しいが、ヴィンセントは旅の間に使っていたマテリアを仲間たちからいくつか譲り受けていた。その中には当然「かいふく」もある。
マリンはぱっと顔を輝かせると店主に駆け寄り、ヴィンセントがマテリアを持ち合わせていることを代わりに説明してくれた。店主がほっとしたように笑顔を浮かべる。

「いいのかい、助かるよ」
「ある程度治せはするが、医者に確認してもらった方がいい」
「そうするよ。どうせこれを外してもらわなきゃならないしね」

店主は苦笑しながらギプスを叩いた。ヴィンセントはバングルを確かめてから屈みこみ、そこにケアルラを唱える。

「じき配達にも行けるな。ありがとうな、マリンちゃんも」
「どういたしまして!」

誇らしげなマリンに、店主は戸棚から飴玉を取り出して握らせていた。ヴィンセントはその間に水のタンクを抱えあげ、さっさと店の外に出ている。街路は既に夕焼けの気配に染まっていた。もうしばらくすれば、ティファが店を開ける時間だろう。
客が入る前に届けたいが、とヴィンセントがマリンを待ちながら考えていると、そのマントがつんつんと引かれた。

「ヴィンセント、ちょっと屈んで!」

言われたとおりにヴィンセントが屈むと、マリンは小さな手で、パッケージを破った飴玉を差し出してくる。

「はい、あーん」

完全に予想外だった。明らかに躊躇したヴィンセントの薄い唇が、しかし既に押し付けられてしまったものを拒むこともできず、ためらいがちに開いて飴玉を受け入れる。
ヴィンセント・ヴァレンタインに手づから菓子を食べさせるという恐るべき偉業をあっさりと達成したマリンは、その行為のとんでもなさにはまったく気づかないまま、自分の口にも飴玉を放り込んだ。
ん~!と、その甘さに彼女は頬を緩め、それから慌てたように唇の前で人差し指を立てる。

「ごはんの前だから、ティファにはないしょね!」
「……ぜひ、そうしてくれ」

楽しそうに歩き出す彼女の後ろ姿を追いながら、ヴィンセントはため息の代わりに、口の中でころりと飴玉を転がした

 

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