テントの暗い天井を見つめながら、ヴィンセントは慎重に”以前”を思い起こす。
この時代の”ヴィンセント・ヴァレンタイン”は棺桶の住人だ。ヴィンセントが知る出来事は全て、のちに作成された機密資料と、その元となったクラウドやティファの証言の伝聞でしかない。
この魔晄炉の内部で、セフィロスとザックスは魔晄漬けになった人間――神羅が造りあげたモンスターを目撃した。それをきっかけとしてセフィロスは、自分が同じようにして造り出されたのではないかと疑念を抱き、それを否定するために神羅屋敷の資料を頼った。
だが神羅屋敷の資料が示したものは、ジェノバという古代生物の細胞によって人を越えるものを創り出すという、とある極秘プロジェクトの存在だった。自らの出生に関して母の名はジェノバだとだけ教えられていたセフィロスは、このプロジェクトによって造り出されたものが自分であると確信してしまったのだ。
”以前”のセフィロスが精神に異常をきたしていたとするならば、それはここからだろう。彼は自らを古代種ジェノバの意思を継ぐ星の支配者だと定め、人の手からジェノバを救い出すべく村を焼き、縛り付けられていた魔晄炉から解放した。この行動にはジェノバ本体からの精神的干渉もあったのではないだろうか。ジェノバの精神感応には距離的な制限がある。
セフィロスがニブル山魔晄炉へやって来たからこそ、ジェノバはセフィロスに干渉できたのだ。
やはりこの調査任務は、最初から仕組まれていたのだろう。
セフィロスをジェノバ本体へ近付けると同時に、おぞましい人造モンスターの姿を見せることで精神にゆさぶりをかける。わざわざジェノバ、とだけ教えられていた母の名。同じ名のプレートを魔晄炉の奥にかかげ、ここに何かがあるのだと示しておく。
セフィロスが一縷の望みをかけて神羅屋敷を訪れたのは、あそこがかつて研究施設であったと既に教えられていたからだ。そして一見して研究施設などには見えない屋敷の、隠された地下に放置された重要資料の数々。
本来、放棄された施設に資料を残しておく意味などない。ルクレツィアの名だけでなく、ガスト博士以外の研究者名がほとんど削られたそれらの資料は、セフィロスをその結論へと向かわせるために用意されていたものだったのだ。
DG騒動の後、それら資料の不自然さにやっと気づいたとき”ヴィンセント・ヴァレンタイン”は愕然としたものだ。
科学者としては結局二流のセンスしか持ち合わせていなかった宝条が、謀略という面にはこれほど長けていたことに。何より、ルクレツィアという名を知る自分にだけは、それを暴けたはずだったということに。
だから。
何としてでも、ヴィンセントが止めねばならないのだ。惨劇を。
そこから生まれる悲劇と復讐を無に帰すために。
自分たち――かのプロジェクトの手によって狂わされてしまったあの子の人生を、たとえルール違反だと言われようとも、今度は舞台の外側から救うために。
