屋敷の中は、隔絶された別世界のように静まり返っていた。
ザックスの語彙にそれを表す言葉はないが、大きな窓や弧を描く階段はまさにお屋敷らしいお屋敷、といった内装だ。ただしあらゆるところに埃が積もり、誰かが歩くたびに白く舞い上がっている。
「どしたの、セフィロス」
「……見覚えがあるような気がする」
難しい顔で辺りを見回していたセフィロスは、そう言うと屋敷内を探索し始めた。セフィロスらしからぬ荒い足音に、ぎいぎいと床が軋んでいる。ザックスとヴィンセントも、埃に閉口しながら後へ続く。
室内には椅子やテーブルから果てはピアノまで、かなりの家具が残されたままになっていた。かつてはパントリーだったのだろう奥の一室で未開封のワインらしき瓶を窓の光に透かし見ながら、ザックスはセフィロスを振り返った。
「なあ、これ後で開けてみてもいい?」
「…………」
注意深く辺りを観察しているセフィロスは返事もしない。仕方なくヴィンセントを見ると、彼は静かに首を振った。ザックスは残念そうに瓶を元の棚へと戻す。
どう見ても今のところ、研究所という感じではなかった。だが先ほど見覚えがあると言っていたセフィロスには何か思うところがあるのだろう、どんな戦場よりも真剣に辺りを調べまわっている。
そしてその姿を、ヴィンセントが心配そうに見守っている。
結局一階では何もめぼしい発見はなかった。
ホールから階段を二つ上がり、大きな窓が並ぶ廊下を抜ける。構造的には二階にあたるのだろうか、左右に分かれたうちの右手側のとある室内で、セフィロスは足を止めた。彼が見つめているのは、膨らむように弧を描く煉瓦の壁だ。
「……ヴィンセント。反対側には何があった」
「サンルームだ」
「あの丸い部屋かあ」
サンルームという名称をザックスは知らなかったが、枯れた鉢植えがたくさん放置されていたあの部屋のことだろうと位置から見当がついた。一面が窓ばかりになった、珍しい円形の部屋だったのだ。
つまりセフィロスは、そのサンルームと同じだけの空間が、この壁の向こうにあるはずだと言いたいのだろう。
その確信をもってよくよく壁を調べれば、なるほど確かに、煉瓦には怪しい隙間がある。
「うわー、隠し扉? 本当にあるのかよ」
「外れるのか?」
どうやら何かの機構で開くドアのようだが、錆びついてしまっているのかなかなか動かない。
焦れたセフィロスがザックスにも手伝わせて隙間を無理矢理にこじ開けた。ガギン!と明らかに何かが壊れた音がして、ソルジャー二人分の膂力の前に開かずの扉は敗北する。
ギチギチと不穏な音を立てながら、扉は開いた。ここまでしておいて倉庫か何かだったらどうしよう、とザックスはひそかに思っていたのだが、現れたのは期待通りに怪しい石造りの空間だった。まるで井戸の中のような円形の壁際に沿って細い通路が這い、遥か下方へと続いている。
「うぇえー、ナニコレ」
「…………」
「行くのか? セフィロス」
ホラー映画のような不気味さに呻くザックスをよそに、セフィロスは硬い顔のままさっさと通路へと乗り込んでいってしまった。
結局、ここがただの屋敷ではなかったということだけは確定らしい。ところどころ朽ち、手すりもない粗末な通路を、三人はゆっくりと進んでいく。
「……地下、か」
一足先に下りきったセフィロスがぼそりと呟いた。そこから続く通路は天然の洞窟を利用して作られたものらしく、足元こそ歩きやすいよう整えられているものの、剥き出しの岩肌だ。
だがしばらく進むと、正面に大きな扉が据え付けられているのが見えてきた。
「これって完全になんか悪いヤツのアジトじゃねえ?」
「……遺憾ながら同意見だ」
ヴィンセントが嫌そうに答える。無理もない。ここは彼の住む村なのに、こんな空間があることを誰も知らなかったのだ。
セフィロスがいよいよ扉に手をかけた。見た目は木製だが、ずいぶんと重そうだ。
