大剣はそのあまりの大きさと重量から斬るではなく叩き潰すためのものだと思われがちだが、そもそもソルジャー用に”再発見”されたこの武器の真価は、魔晄をまとわせた状態で振るうことにある。
魔晄により強化された剣は、時に生きたモンスターを一刀両断するほどの切れ味を生む。そこに刃の有無はもはや関係ない。
大剣が有する巨大な”面”は、なるべく多くの魔晄をそこで保持するために用意された要素なのだ。
「だからさ、やっぱり大きいに越したことはないんだ」
「理想の追求はけっこうだがよ、お前の剣一本で俺様の槍何本分になんのか考えたことあるのかよ」
気持ちよく語っていたらシドにもっともなことを突っ込まれ、クラウドはうっと呻いた。
大剣や槍はつまるところ、何のギミックもない金属の塊だ。ゆえにその制作費用の多くを材料費が占める。
大都市ミッドガルの崩壊に伴う移住・建築ラッシュの真っただ中で、金属の需要と値上がりはすさまじい。今、魔晄を通すのに適した純度の高い素材を大剣の重量分集めようなどと考えるのは馬鹿の所業だ。
「でも改めて言われると、理には適ってるなーって感じ。確かにウータイの手裏剣も、初期は手のひらサイズの飛び道具だったんだよね」
そう言ったユフィを場の面々が見やる。瓦礫に腰かけた彼女が背負う手裏剣は、物にもよるが大抵片腕の長さほども直径がある。しかも鋭い刃がついているのだ。それを彼女は、使い捨てではない飛び道具として自在に運用している。
「ニンジャは魔晄使えるもんな」
「ウータイでは気っていうんだよ。キビシー修行して使いこなせるようになって、やっとニンジャを名乗れるわけ」
魔晄とは、言うなればそこに意志を含まないライフストリームだ。別に魔晄炉のような特別地脈が地表に近い土地でなくとも、命の存在あるところにそれはすべからく宿り、漂っている。
精神的・肉体的に厳しい修行の末、自然からその力を借りる技を習得した者たちがウータイのニンジャだ。その深奥に達すればモンスターの力さえ借りることができるというのは眉唾物ではあるが有名な話で、実際に五強の塔で番人たちのそれを目にしたとき、クラウドはちょっと感動したものだ。
もしかしたら神羅は、素質に左右されないインスタントニンジャを作りたかったのかもしれない。
「だからさー、エアリスがあんなにさらーっと大量のライフストリーム呼び込んで、変換して、みんなに分け与えて癒しよ~ってやってたの、アタシ初めて見た時仰天しちゃったよ。アンタらたぶんわかってなかったんだろうけど、あんなの、別になーんにも鍛えてない普通の女性がやっていいレベルの技じゃないんだよ」
ユフィの呆れ声に反応したのはバレットだ。元々炭鉱夫である彼は、その非常に恵まれた体格とギミックアームで長く戦い抜いてきたものの、クラウドやユフィのように戦闘技術を習い修めたことはない。
「あ? そうなのか? 確かにあんな魔法みてぇなリミットは珍しいとは思ったが、でもエアリスは最初からああだったし、ずいぶん助けられたもんだ。あー、そういややたら魔法が上手かったな」
「オイラはちゃんとびっくりしたよ! でも古代種だって先に聞いてたからね」
人間よりも遥かに星と親和性の高い生物であるナナキには、エアリスの能力の異常性がわかっていたらしい。ナナキ本人も、息をするように自在に魔晄を操り自身の爪や脚力を強化するその戦い方は、人間には到底真似できないものだった。武器としているたてがみ飾りは、その魔晄の方向性に色を付けるシンボルでしかない。
「アタシ、今までの修業が一体何だったのかってバカらしくなっちゃったくらいでさあ。ホント古代種の才能ずるすぎ! まあ、イイことばっかりじゃなかったのもわかってるけど」
古代種であったがため運命に翻弄されたエアリスを思ってか、ユフィはほんの一瞬しんみりと目を伏せた。
煙草の煙を吐いたシドが、やれやれと首を振ってすかさず言を挟む。
「お前そんなに言うほど修行とかしてたのかよ、跳ねっ返りの家出娘のくせに」
「はぁー?! いまや名実ともにウータイいちのニンジャであるこのアタシに向かってよくそんなこと言えるよね! まあこのユフィちゃんが、努力なんてもの必要としない天ッ才であることは確かですけど!」
「そういう大言壮語は素手でヴィンセントに勝てるようになってから吠えろよな。あいつガンナーだぞ」
「な、あ、アンタにはよゆーで勝てるっつの!」
ぎゃあぎゃあとやかましい口げんかに突入する二人をよそに、クラウドは冷静に呟く。
「努力を必要としないかはさておき、実戦に放り込んだ方が伸びるタイプであるのは確かだな」
「それはそうかも。あの親父さんも、案外ユフィが出ていくのをわかってて見逃したのかもしれないね」
のんびりとナナキが答えた。実のところユフィが戦闘の天才であることは疑いようもないのだが、肯定すると際限なく図に乗る性格なので、誰も面と向かって言わないだけだ。
「一人娘をか? 自分の知らねぇところで死ぬかもしれねぇんだぞ」
唯一の子持ちであるバレットは、愛娘を思えば信じられないとばかりに顔を顰め、背筋を震わせる。
「バレット。かわいい子には旅をさせよ、って言葉もあるんだよ」
「どういう意味だ?」
「真に子のためを思うなら手放して経験を積ませてやれ、って感じかな」
「そ、それは……いつかは……」
恐らく小旅行どころでない花嫁姿まで想像が飛んでしまったのだろうバレットは、うおおおお、マリーン! と頭を抱えて叫び出し始めた。クラウドはナナキと顔を見合わせ、肩をすくめると話題を変えた。
「ヴィンセント、帰ってこないな」
「上がれそうなところ、見つからないのかな」
ミッドガル上層部へのルートを探して偵察に出たヴィンセントはいまだ戻る様子がない。とはいえ特に心配するようなことはないだろう。彼は仲間内でも特に気配察知に優れている。
クラウドは手持ち無沙汰に、自らの大剣をぼろ布で磨き始める。
このアルテマウェポンは良い剣だが、あまりにも大空洞向け――否、大空洞に特化していた。
潤沢な魔晄を吸い上げて星の深部のモンスターをも撫で斬りにする高い攻撃力。中途半端なマテリアの出番などないと言わんばかりに成長を切り捨てたマテリアホール。幾分時代がかったその見た目さえ、暗く淀んだ大空洞の中でもきらめく剣筋は常にクラウドの位置を教え、仲間たちの指標となっていたことは否めない。
さすがは星から与えられた眷属だけのことはある。
だからこそ、これはもう使うべきでないのかもしれない。
クラウドはこのところ、そう考えるようになっていた。
もちろんクラウドの本音を言えば、惜しい。アルテマウェポンはいわば星があつらえてくれた、この世に一本しかないクラウド専用の武器なのだ。別に星に頼まれた旅路というわけではなかったが、何とか無事に終えた今、星からのご褒美だと考えても構わないはずだ。
ただ地上では思った以上に使い勝手が悪いのも事実だった。思い通りに斬るためには多量の魔晄を必要とするうえ、マテリアは増やせず、派手な外見がとにかく目立つ。長所の全てが裏目に出ていると言ってもいい。
「クラウド、何か考え込んでる?」
「いや、そういうわけじゃないんだが……これは地上で使っていい武器じゃないのかもなと、思って」
「星の眷属だもんねぇ」
ナナキとしてもなんとなく思うところがあるようだ。仲間は皆、これが只の剣でないことを知っている。
「クラウドがこれからどこで何をして過ごすかにもよるだろうけど。確かに、人間の世界ではジャマになるんじゃないかなあ、これ」
「そう思うか」
「勘だけどね」
ナナキは武器らしい武器こそ使わないが、星の守護者とも言われる一族だ。彼の勘は根拠がなくとも正しいことが多かった。もしかすると星の示唆なのかもしれない。
そう思えば、クラウドも不思議と未練が薄らぐような気がした。
「うん。ありがとう、ナナキ」
「なにかわかんないけど、どういたしまして?」
クラウドに撫でられえへへと笑ったナナキが、ふと何かに気付いたようにぴんと耳を立てた。次いでクラウドとユフィが、同じ方向へ振り返る。
「――戻った」
瓦礫の影からまるで滲み出るように、気配の薄い男が現れた。足音の一つも伴わないその登場にバレットとシドが驚きをあらわにする。目立つはずの真っ赤なマントをまとうヴィンセントがこうも隠密行動に長けていることは、パーティ七不思議の一つだとクラウドは思っている。
「おかえりヴィンセント。どうだった」
「上がれなくはないが、バレットとシドは無理だな」
「それじゃ上で何か見つけたって下ろせねぇ。本末転倒だぜ」
シドがため息をつき、お手上げだというジェスチャーをした。
要するに瓦礫と鋼材の隙間をかいくぐって跳んでいくルートしか見つけられなかったということだ。身が重く隻腕のバレットと、武器が長物であり癖として着地が重いシドには向かない道は、帰りのルートとしても機能するかどうかが怪しい。
「上にモンスターの気配はないようだ」
「お、それは朗報だな。よし、今日はここでいったん切り上げる。違う方向から回り込むか、もしくはここから道を開拓するか、戻って作戦会議だ」
下されたリーダーの指示に、「ハーイ」「おう」「了解した」などの返事が口々に返った。
目下の拠点となっているプレハブとテントの広場へと戻るべく、五人と一頭は瓦礫の山を越えて進んでいく。時折現れるモンスターも、この英雄たちにとっては役者不足だ。切り裂かれ、銃弾の雨に倒れるその光景に、クラウドはふと一抹の違和感を感じて殿のヴィンセントの元へと歩み寄る。
「あんた、デスペナルティじゃないんだな」
「置いてきた。ここで使うには大きすぎる」
「ああ、確かに」
ヴィンセントが大空洞で使っていたデスペナルティは、彼の武器の中でもとりわけ銃身の長いライフルだ。クセの強い銃であるらしいが、彼はそれを見事に使いこなしていた。
並んで歩くクラウドを見下ろし、彼は歩みを止めないままに言った。
「あれは、祠へ返そうと思っている」
「……えっ」
クラウドは思わず立ち止まった。それほどに意外な言葉だったのだ。
デスペナルティはヴィンセントが持つ中で最も強いと言える武器だが、仲間たちは当初、それをヴィンセントに使わせることに難色を示していた。
なぜならそれはヴィンセントがかつて愛した女性が、ヴィンセントの四体目の異形を目覚めさせるともに寄越してきたものだったからだ。
『これでますます人間から離れていく』そう自嘲したヴィンセントを見たシドやユフィはルクレツィアに対して怒り狂っていたし、クラウドでさえ穏やかでいられなかった。だがヴィンセント当人は静かに仲間たちを宥め、他の銃を手に入れた時とまるで変わらない様子でそれを整備し、それからずっと手放すことなく愛用していたのだ。
それを。
「返す?」
「あの銃は大空洞で役目を終えた。そう感じている」
ヴィンセントはそう言い、クラウドを促して再び歩き出す。
大空洞でクラウドたちは、セフィロスを倒した。ホーリーを解放した。世界を、救った。
それは未来に偉業として讃えられる英雄的行為だったかもしれない。だが実際のところヴィンセントにとっては、ルクレツィアがあれほどに熱望した息子の命を世界のために絶つという非道の行為だ。
そのための武器を当のルクレツィアから与えられたことは、絶望だったのか、救いだったのか。
だがどちらにせよ。デスペナルティを手放すと決断できたのは、ヴィンセントがその思いに一区切りをつけたということなのだろう。
「……あんたは、決めたのか」
クラウドが呟くと、ヴィンセントはちらりとクラウドが背に負うものへ視線を投げた。
「アルテマウェポンか」
「うん」
「……そうだな。ウェポンの価値は、人の世には過ぎたものかもしれない」
「惜しいんだけどなぁ」
未練たらたらのクラウドに、ヴィンセントはマントの内側で苦笑を浮かべた。
「いっそ新しいものを作るがいい。一切の遠慮なく、お前にしか扱えない剣をな」
「あーいいな、それ。すぐには無理だけど」
先ほど脳裏に浮かべた、馬鹿の所業という言葉がリフレインする。だがいつか落ち着いたらそうしようと、クラウドは今心に決めた。
威力・利便性・そして見た目。誰でもないクラウドの、あらゆるわがままと好みを詰め込んで。
「ヴィンセント。その時は、俺が新しい剣考えるのに付き合ってくれよ」
「私が? 役に立たんだろう」
「そうでもないさ。あんたなんでも、けっこう鋭い意見くれるからな」
「クラウドー! ヴィンセントー! おそーい!」
「何やってんだお前ら! ティファのメシ、残してやらねぇぞ!」
ぴょんぴょん飛び跳ねるユフィと槍を担いだシドが、遥か向こうで手を振っている。
クラウドとヴィンセントは顔を見合わせると、瓦礫を飛び越えて走り出した。
POSTSCRIPT:クラウド・ストライフは武器マニアである。
