【FF7】VYアドベントカレンダー 12/13~12/18 - 2/7

13.おでん/なべ

 

今日は二人揃って定時退社だ。乾いた冷たい風が吹き抜ける街路を、首を竦めながら急ぎ足で歩く。
ふわ、とどこかで嗅いだことのある食欲をそそる匂いがして、ユフィは歩きながら唐突に呟いた。

「なんかおでん食べたくなってきた」
「おでん?」
「あ、ヴィンセント知らない? なんて言えばいいんだろ。えーと、ウータイ風のポトフみたいな……? 大きめの具をお出汁でいっぱい煮込むの」
「ほう」

おそらく大鍋でと言いたいのだろう、両手で宙に円を抱きかかえるようなジェスチャーをするユフィを、ヴィンセントは面白く眺める。

「ウータイにいた頃は気づかなかったけど、けっこう具がウータイ独特なんだよね。こっちだと全然売ってないや」
「どんなものが入るんだ」
「えとね。大根でしょ、ゆでたまごでしょ、お豆腐はわかるよね? あと厚揚げっていう、豆腐の外側だけ揚げたやつも入るし、がんもはつぶした豆腐に具混ぜて揚げたやつだし、もち巾着……も豆腐揚げたやつに餅仕込んだ食べ物だわ。えええ、こんなに豆腐多いなんて気付かなかった……」
「ずいぶん健康的だな」
「いやいやいや。お肉も入るよ。牛すじとか手羽元とかウインナーとか。タコ足とかもいいし、あと魚のすり身を揚げたやつ」

その”魚のすり身を揚げたやつ”も数種類あるのだが、ユフィは詳細を省いた。
それよりももっと説明しづらいものがあることに気付いてしまったからだ。

「アタシこんにゃく好きなんだけど、アンタ知ってる?」
「いや、初めて聞く」
「こんにゃくはねぇ、半透明の灰色でぷるぷるした、固いゼリーみたいな食べ物で、原材料は芋の一種。カロリーほぼゼロ」

言いながらユフィはヴィンセントを見上げた。予想通り、ヴィンセントは眉根を寄せた渋い顔をしている。こんにゃくというものがうまく想像できないのだろう。

「んっふふ。ヴィンセント、変なカオしてる」
「……それは本当に食べ物か?」
「ちゃんと料理すれば美味しいんだよ、ほんとホント。料理しないと味無いけどね」

また一つ増やされた変な情報に、ヴィンセントはますます胡乱げにユフィを見た。
ユフィはにししと笑って、ヴィンセントの腕にしがみついた。

「今度ウータイ行ったら亀道楽で盛り合わせ頼も。それなら間違いないでしょ?」
「……そう言えばユフィ、年末年始はどうする。ウータイに戻った方がいいのではないか」
「うっ」

ユフィは呻く。薮をつついて蛇が出てしまった。なるべくクリスマス以降のことは考えないようにしていたのに。

「う、ううー。でもさホラ、あっち帰ったら挨拶回りとか絶対めんどうだし……何言われるかわかったもんじゃないしさあ」

実のところ、帰って来いという手紙も何度か届いているが、ユフィは仕事を理由に返信していない。
早く当主の地位を継げだの、孫の顔を見せろ、だの想像しうる小言だけは山のようにあった。そこにユフィの事情は加味されていない。ユフィは故郷ウータイを愛しているが、まだウータイに閉じ込められるわけにはいかないのだ。

「アタシは今の仕事好きなんだもん。世界を守るってのはウータイも守ってるわけだしさ」

それに、と口が勝手に動く。

「ヴィンセントは年末年始、アタシがいなくてもいいわけ? こ、コイビトになってからは初めてなのに。アタシはヴィンセントと一緒にロマンチックなクリスマス過ごして、カウントダウンで年越しして、初売り行ったりしたいのに!」

口に出してみるまで自分でも気付かなかった理由に、ユフィはマフラーの中で顔が赤くなるのを自覚した。
恥ずかしくてヴィンセントの顔が見られない。だが彼は、何も意外なことなどないかのようにユフィを見下ろしたまま言った。

「休みはお前に合わせてあるぞ」
「……一緒に……来てくれるの」
「お前が望むならどこへでも」

むしろヴィンセントとしては、ユフィが自分は一人で帰らねばならないと思いこんでいたことの方が意外だった。ユフィはどうやらウータイとヴィンセントとはあまり関わりがないと考えているようだが、彼女がいずれウータイへと帰り当主の座を継ぐだろうことは、ヴィンセントにとって最初から決定事項だ。ヴィンセントはユフィにウータイを捨てさせる気など毛頭ない。ウータイを愛している彼女を愛したのだから。

「ほ、ホントに? 本当にいいの? たぶんすごく面倒くさいことになるよ?」
「お前を得たいと思う限り、いずれはやらねばならんことだ。むしろ私はお前に面倒を増やしてしまうだろうな。私はウータイ人ではないし、この身体のこともある」
ヴィンセントは足を止めると、おろおろと見上げてくるユフィにそっと微笑みかけた。
「それでも、私を望んでくれるか」
「……うん!」

ぱあっと花が咲くようにユフィが笑った。この笑顔こそが、ヴィンセントがずっと見ていたいものだ。

「そろそろゴドーに……ゴドー殿に、改めてご挨拶しておくべきだろうしな」
「うぇっ?!」
「それにさっきのこんにゃくというものも食べに行くんだろう」
「そこ同列なの?! あとこんにゃくじゃなくておでんだからね!」

笑い合いながら二人は再び歩きだす。家はもうすぐそこだ。

 

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