15.大そうじ
「あー、そろそろ大掃除しなきゃだなあ」
カレンダーを見据えながら嫌そうに言うユフィに、ヴィンセントは首を傾げた。
「なぜ今頃?」
「なぜって……年末大掃除、しないの?」
「しないな。季節的に窓を開けておきにくいだろう。改めてするならばもっと気候の良い時期を選ぶ」
ユフィはぽかんとヴィンセントの顔を見上げた。
ユフィにとって、年末に大掃除をするのは常識だった。ウータイではそうなのだ。
だが言われてみれば確かに、寒い寒いと震えながら窓を全開にして家中の掃除をするのはどう考えても効率的ではない。気合が要りすぎる。春か秋の方がやりやすいに決まっている。
「ほ、ほんとだ……?」
がらがらと崩れ落ちる常識に唖然とするユフィを見、ヴィンセントは笑いを詰まらせた。
「ウータイではそうなのだな」
「うん……。ウータイってお正月をけっこう重要視するからさ、ぴかぴかのお家で新しい年とか神様とかお客様とか迎えましょうってことなんだろうね」
「なるほど。実際の効率よりも文化的背景が勝っているわけか」
「あーびっくりしたあ。そんなとこ、疑ったこともなかったもん」
「良い節目ではあるのだろうがな」
ヴィンセントは目線だけで室内を見渡した。生活感はあるが別に散らかってはいない。ユフィもヴィンセントも掃除はまめにする方だ。なぜか、意外だと二人ともよく言われるのだが。
「普段だって掃除はしてるし、今年は別にいいか」
同じ結論に達したのだろう、ユフィが開き直ったように言った。
「それに、年末年始はウータイで過ごすのだろう」
「あ、うん。そうだった」
ヴィンセントがもうひとつ理由を出してやれば、ユフィは頷いてもう一度カレンダーを見た。28日の日付には“ウータイ”と派手に大書きしてある。
「あーあ、エッジでカウントダウンからパーっと騒ぐの楽しみだったのになあ」
「私としては助かったな」
「アンタは家でしんみり除夜の鐘聴いてる方が好きそうだもんね」
「何の鐘だ?」
聞き慣れないウータイ語に首を傾げたヴィンセントに、ユフィはいそいそと寄ってくると得意気に解説をしてくれる。この“ユフィのウータイ語講座”はヴィンセントの楽しみの一つだった。ユフィは生まれが名家であるせいなのか、本人の雑な言葉使いの割には古典的な語彙が豊富だ。
こうして伝統的な言葉を教わるたびに、ヴィンセントは彼女のルーツをひとつ知れたような気がするのだ。
「マイナス方向のカウントダウンだな」
「そう言われてみるとそうかも……。どんどん落ち着いていくんだもんね。面白いこと言うなあ、ヴィンセント」
除夜の鐘、という単語に対するヴィンセントの感想に、ユフィは感心したようにこくこくと頷いた。
「実際に聴いたらどうかなあ。大したモノじゃないけど、風情感じてくれたら嬉しいかな」
「楽しみだ」
ヴィンセントがそう答えると、ユフィは嬉しそうに笑った。
