【FF7】VYアドベントカレンダー 12/13~12/18 - 6/7

17.クリスマスツリー

 

WROのロビーには今、巨大なクリスマスツリーが立っている。
もちろん本物のもみの木ではない。きれいな円錐形に床すれすれまで葉を茂らせた精巧なフェイクプランツではあるが、その色は白だ。そこに赤と緑と金を基調にした華やかな飾りつけが施されており、かなりの見ごたえがあった。
WROのロビーは一般開放されているフロアなので、娯楽がしわ寄せを受けているこのご時世においては一つの観光名所ともなっており、今は昼でも夜でもとにかく人が多い。
そんな中、口コミとネットではまったく重要性はない、しかし熱意ある一つの噂が取りざたされていた。

 

 

「”幸運のケット・シー”?」
「そう」

訝しげに返したヴィンセントに、ユフィはこくりと頷く。

「このツリーのどこかに、サンタ帽被ったちっちゃなケット・シーのマスコットが一個だけ飾ってあって、それを見つけるといいことがあるっていうウワサがあんの」
「ほう」

マメなことだ、とツリーを見上げながらヴィンセントはのんきに思った。誰かは知らないが、一ギルの入場料も取らずに美しいツリーを公開するだけに飽き足らず、飽きられないようにかサプライズまで仕込んだと思しき職員の誰かのことである。誰かは知らないが。

「お得意のネットとやらに答え合わせはないのか」
「それがさあ、位置が毎日変わってるぽいの。それに見つけた人も、あんまりネタバレしないんだよね」

マメなことだ、とヴィンセントは再び思った。これは本当にもしかするともしかするのかもしれない。
ほら、と言ってユフィが見せてくれた携帯の画面には、真っ白なフェイクプランツの葉だけを背景にしたケット・シーのマスコットの姿が映っている。どうやらぎりぎりまで拡大して撮ることで、ツリーのどこにあるかという位置関係がわからないよう配慮されているらしい。

「……それで? まさか毎日ここを通っているにも関わらず一度も見つけたことがない、とでも」
「なんでわかるのおおお」

ごんっ、とぶつかってきたユフィを、ヴィンセントはよろけもせずに身体で受け止めた。彼女の口調から、見つけたことはないのだろうと当りをつけただけなのだが。

「だーかーら、今日こそは見つける! ヴィンセントも探して!」

そう命令するなりぱっと身を翻して離れていった彼女を見やり、ヴィンセントは小さくため息をついた。
よくよく観察すれば確かに、ツリーを見上げる人々の中には明らかに何かを探すような視線を注いでいる者たちもいる。腕を組んだカップルや家族連れ、抱き上げられて届かない手を伸ばす幼子、平和な光景に目を和ませる車椅子の老人。様々な年齢層の人々が、皆楽しんでいるようだ。
マメなことだ、とヴィンセントはみたび思った。すたすたとユフィとは反対方向へ少し歩くと、”触らないで下さい”のポールの前で立ち止まる。

「仕事中か、ケット・シー」

ゴミでも拾うふりで一瞬屈み小声で囁くと、ツリーの低い位置の葉がわずかに揺れる。ぶら下がっているのは王冠の代わりにサンタ帽をかぶったWROのマスコット、ケット・シーだ。
何号機なのかはわからないが、普段より格段に小さなボディに発話機能などないだろう。それでも”彼”は明らかに意志の宿る視線でヴィンセントを見ており、見つけられたことを証明するかのようにささやかに手を振った。
毎日自力で位置を変えるオーナメントとは。見つけにくいはずだ。
ヴィンセントは携帯を取り出し、慣れない操作でもたもたとカメラを呼び出した。念のため直接そこへは向けず、少し離れた個所を撮っているようなふりをしながら、ケット・シーだけを拡大する。
撮れた写真は少しぼやけていたが、まあ及第点だろう。ヴィンセントは携帯をコートのポケットに放り込むと、後ろに下がって場所を譲った。
空いたスペースに駆け込んできた小さな子供たちがぽかんと口を開けて、輝く巨大なツリーを嬉しそうに見上げている。あの中の一人くらいは、すぐそばのケット・シーに気付いてくれるといいのだが。

「いいことがある、か」

顔を上げたヴィンセントの視線の先で、ユフィはうーうーと唸りながらツリーを睨んでいる。
この写真を見せてやったらどんな顔をするのだろうか。
ヴィンセントは知らず口元を緩めながら、彼女の元へと歩いて行った。

 

送信中です