【FF7】雪の華

 

街灯に丸く照らされたベンチから、立ち上がった彼女はぱっと華やぐ笑顔を見せた。

「わあ、ステキ! うん、とっても似合う!」

着せられた、がらにもなく凝った衣装がどうにも落ち着かないヴィンセントを、翠の目は楽しげに見上げる。立ち尽くすしかないヴィンセントを各方向から眺め、クリスマスカラーの派手なタイに頷いたり、長いファーのストールを弄んだりとやりたい放題の彼女は、その淑女の装いにもかかわらず、まるで少女のようだ。

「君も、白が良く似合う。雪の精のようだな」
「そーお? うふふ、ありがとう!」

ヴィンセントの拙い褒め言葉に彼女は満更でもなく笑い、見て見てと言わんばかりにその場でくるりと回転した。ファーと雪の結晶のモチーフがあしらわれた白いドレスの一揃いは初めて見るものだったが、彼女にはとてもよく似合っていた。おそらく今の自分と同じように、ホリデーのためにあつらえられたものなのだろう。
そうだった。ホリデーのパーティのためにここで待ち合わせていたのだ、とヴィンセントは思い出した。ヴィンセントのこの衣装はリーブから押し付けられたものだ。おそらくパーティのていの良いサプライズ扱いなのだろう。彼女のこの衣装もだろうかと考えたところで、脳内のリーブが『せやけど女子にドレス贈るわけにはいかへんやんか』と騒ぎ立てた。だからと言って、相手が男なら好きに飾り立てていいというものではない。

「気が乗らないって顔、してる」
「……そもそも、パーティでにこやかな私というものを想像できるか?」
「あっははは!」

彼女は屈託なく笑い声を上げた。何がそんなに面白いのか笑いは収まらず、ついには身体を折ってまで笑い続けている。特別な装いに反して、彼女はまったくいつも通りだ。そんな彼女を見ているうちに不思議と、ヴィンセントの胸の内からはパーティに対する拒否感が薄れていく。
そう、それにドレスアップした彼女をエスコートしなければならないだろう。これは大役だ。そう思えば、『嫌だ』が今では『仕方がないから行くか』くらいにはなっていた。彼女の笑い声には人を前向きにさせる効果でもあるのだろうか?

「あーおもしろい。ヴィンセント、たぶんできないわけじゃないよねってふと思ったら、余計におもしろくなっちゃって」
「……まあ、必要であればな」

やっと戻ってきた彼女は、笑いすぎて目尻に浮かんだ涙をぬぐっている。憮然としてみせたヴィンセントを宥めるべく、手袋に包まれた手がぽんぽんと彼の肩を叩いた。

「そうだ。じゃあこれ、私からプレゼント。今はお花の時期じゃないから」

彼女は自身の胸のブローチを取り外すと、ヴィンセントの左胸へと留めた。彼女の手が離れると、シンプルな雪の結晶型だったはずの銀のブローチは、金色の星にも見える透かし彫りの大ぶりなアクセサリーとなってヴィンセントの襟におさまっていた。ヴィンセントは目を瞬き、思わず彼女を見やる。

「この際だから思い切り派手にいっちゃお! ね? そうだなあ、メガネとかしてみるのも意外でいいかも!」

胸中に浮かんだ疑問は、しかし舌が凍り付いたように言葉にならない。懐かしい翠の目がヴィンセントを見上げ、にっこりと微笑む。

「ちゃんと楽しんできてね。ハッピーホリデー、ヴィンセント!」

 

 

***

 

 

ヴィンセントは目を覚ました。
カーテン越しの朝日の中でベッドに身を起こすと、壁に掛けてある黒いガーメントカバーが目に入る。その中身はリーブから押し付けられた、ホリデーパーティ用のフォーマルだった。先ほどの夢の中でヴィンセントが着ていたものだ。
WROのパーティに参加を要請され、断り切れなかったのは事実だった。服まで作られてしまった手前、嫌々ではあるがほんの一時顔を出して済ませるかと思っていたことも。だが。

「仕方がない。君の言う通り、楽しむよう努力はする。――それでいいか、エアリス」

自分は彼女にいまだ心配をかけているのか、それとももしやあれで怒られていたのだろうか。淡い苦笑を浮かべ、ヴィンセントはひとり呟いた。
ガーメントカバーの中に、試着時にはなかったあの金色の星が輝いているだろうことを、確信しながら。

 

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