6.ラーメン
ヴィンセントの殺風景な部屋で、食料品をしまうべくキッチンの棚を漁っていたユフィが呟いた。
「ヴィンセントってインスタントラーメンとか食べるんだ……」
「……食べないと思われていたのか?」
「いや、なんていうか、イメージが?」
この場合のイメージとはごく一般的な、CGみたいな美形顔に赤マントを纏ってトリプルリボルバーをぶっ放す英雄の一人、というやつである。インスタントラーメンどころか、何かを食べている光景すら思い浮かばない。赤ワインくらいは傾けていそうだが。
本人を知っているユフィからしても、ヴィンセントがいくらか浮世離れしているのは事実なので「カップラーメンってお湯だけで食べられること知ってんのかな?」などという失礼な感想が浮かんでいたのは秘密だ。
当のヴィンセントは食器をしまいながら、怪訝そうな顔をしている。
「そもそも、インスタントラーメンを食べない一人暮らしの男などいるのか」
「ああうん、それは女でも食べるわ。ゴメン」
値段が安く、買い置きがきき、存在を忘れていても腐った生ごみになったりしない。お湯さえあれば温かく食べられ、しかも美味い。本当に便利な食べ物である。ちなみに若いユフィは知らないようだが特に最近の食べ物というわけでもなく、ヴィンセントがタークスに入る以前からとっくに流通していた。
「とはいえ、さほど好んでいるわけでもないが」
「アンタ濃い味苦手だもんね」
うんうんとユフィが頷く。ヴィンセントは不思議そうに彼女を見た。
「以前から思っていたが、お前は私よりもよほど私の好みに詳しいな」
「フッフッフ、愛だよ愛」
「…………」
ユフィがばちんとウィンクまでして放った決め台詞だったが、ヴィンセントはあっけに取られたように目を瞬いて、じっとユフィを見つめている。
「なんで黙るの!」
「いや、すまない。確かにお前の言うとおりだと思っただけだ」
ヴィンセントが自ら語ることもほとんどない彼の好みを、ユフィは確かに熟知している。彼女の部屋で出されるコーヒーの味、食事の味。選んでくれた食器の色。おしゃれを愛すると豪語してやまない彼女が、香りの付いた化粧品をほとんど使わないこと。
いったいどれほどの大きな愛を、知らぬままに受け取っていたのか。
「私も、お前の愛に甘えてばかりでなく精進しなければな」
感謝と、決意も新たにふわりと微笑んだヴィンセントを、今度はユフィがあっけに取られた顔で見つめる。
「……おかしいか?」
「おかしくない!」
ユフィはぶんぶんと頭を振り、手にしていた荷物を放り投げて、ヴィンセントのもとへ飛び込むように抱きついた。
「……アンタが。そういうこと言えるようになって、うれしい」
「お前のおかげだな」
涙声のユフィにそう答えると、ヴィンセントは彼女を抱え上げてリビングへと歩き出した。
