5.チェック柄/ノルディック柄
季節柄、雑貨屋は目がちかちかするような赤とグリーンの組み合わせに溢れている。
ずらりと並ぶ凝ったクリスマスオーナメントをヴィンセントが眺めていると、後ろからやってきたユフィが上着の裾を引いた。
「もー、アンタの部屋のもの選んでるのに」
「すまない」
「疲れちゃった?」
ヴィンセントは黙って首を振った。正直に言えば延々と回るクリスマスソングに辟易していたところだが、その解決法はたった今見つかった。ユフィの声に延々耳を傾けていた方がどんなにか有益だ。
「あっちにクッションカバーあったから見よ」
「ありがとう」
二人は所狭しと並べられた商品の間を縫って、奥の棚へとたどり着いた。天井からぶら下げられた展示品のクッションは色も形も多種多様で、ヴィンセントは思わず顔を顰めた。
「気が遠くなりそう、ってカオしてる」
「……そうかもしれん」
「しょうがないなー、コツを教えたげる。まず、こういうスパンコールとかレースとかちくちくするものが付いたやつは除外。アンタ、クッションに頭乗っける方だから。肌触りがいいやつにしなよ」
そう言われればそうかもしれない。そう思いながらヴィンセントは言われたとおりにそれらを候補から除外する。
「フリンジついてるやつも除外。面倒だからね。起毛はどうかなあ、使い倒してぺったんこになってることにある日気づくとなんとなくダメージ受けるよ。お腹にだっこしとくぶんにはオススメだけど」
何のダメージなのかよくわからないが、とりあえずヴィンセントは頷いておいた。
「裏表の柄が違うやつは意外と重宝するんだよね。あーあと撥水加工も」
「こぼしたのか?」
「ソファーの上なら一回や二回やるでしょ……」
ヴィンセントのツッコミに、ユフィはむいっと唇を尖らせた。
ユフィのアドバイス通りに選別すると、果てしないと思われた布地の海も随分と手頃な数になった。
生地の肌触りを真剣に吟味しているヴィンセントを、ユフィは面白そうに眺めている。
「そのベロアっぽいやつ気に入ったの?」
「そう……だな」
こくりと頷いた彼は、しかし腑に落ちないような顔をしているようにも見えた。
ユフィが思う、ヴィンセントの不思議な部分の一つがこれだった。彼は自分が好きなものや、気に入っているという事実を、よくわかっていないことが多いのだ。今も、ユフィに言われて初めて「自分はこれを気に入っている”のかもしれない”」と思ったのだろう。
好きや嫌い、イイとイヤを声高に叫びながら生きてきたユフィにとっては、理解しがたいタイプだった。
でもだからこそ、理解したくなったのかもしれない。
「じゃあその素材の色違いで二つ買ってー、あと冬だしこういうのは? ノルディック柄」
「それは冬の柄だろう」
「冬の柄だけど……?」
見つめ合うことしばし、はっと気づいたユフィはヴィンセントに指を突き付ける。
「クッションカバーは季節で替える! あっアンタもしかしてベッドカバー、夏のまんまじゃないの?!」
うっと言葉に詰まったヴィンセントの顔には「その通りです」と書いてある。ちなみにユフィは洗濯の心配はしていない。ヴィンセントはそういう点ではマメな男だ。洗濯はするのに冬物には替えないというのは、ユフィ的にはわけがわからないが。
「もー、信じらんない! 今からフカフカのシーツと毛布買いに行かなきゃ!」
ユフィはヴィンセントが手にしていたクッションカバーを2枚と、ついでにノルディック柄も2枚引っ掴んでレジへ向かった。ヴィンセントが慌ててカゴを取ってきて、さらにクッション本体を2つその中に放り込む。
「かよわいユフィちゃんはね! クッションもふかふか毛布もない部屋には泊まりに行けません!」
「悪かった。急いで何とかする。誓う」
囁き声で痴話げんかを交わす二人は、急激に増えた買い物リストを脳裏に描きつつ、大急ぎで雑貨屋の買い物を終わらせたのだった。
