24.今年のクリスマス
セブンスヘブンの店主であるティファは、クリスマスを家族で過ごすべき日だと考えている。
よって今日のセブンスヘブンは昼営業のみ、明日は休みだ。彼女が二人の幼い子供を預かる身だと知る客たちは不平を言うこともなく、彼女の人望が窺い知れた。むしろこのまま年明けまで休みにしてバカンスにでも行ったらどうだとクラウドをけしかける者すらいたほどだ。
そのクラウドはここ数日、店には姿を見せていない。年末はただでさえ運送業の繁忙期だ。特に腕の立つ個人業者であるクラウドは、プレゼントをなんとかクリスマスに間に合わせたいという大人たちの希望を背負って世界中を駆けずり回っている。今日の夕食までには死んでも帰ると気炎を吐いていたが、果たされるかどうかはまだ誰にもわからない。
カラン、とドアベルが鳴る。
「いらっしゃい。あら」
「やほーティファ! メリクリ! 日替わり二つ!」
「メリークリスマス、ユフィ。ヴィンセントも」
「ああ」
連れ立って入ってきた二人は店内を見回した。座席は8割がた埋まっている。
「相席でいいかしら」
そう言ってティファが指したのは奥まった隅のテーブル席だ。使い勝手が悪い位置にあるためにもっぱら作業用、もしくは身内用の席と化しているそこには、既に大柄な人影があった。
「バレットじゃん! こっち来てたんだ?」
「クリスマスだもの」
「明日になったらマリン、プレゼントで潰されてそー」
「厳選しなさいって言ってあるんだけどね」
ティファが肩をすくめる。愛娘と久しぶりの再会を果たした際のバレットの、激しい愛情表現が知れようというものだ。
ユフィとヴィンセントは店内を横切って席へと向かった。
「やほーバレット、おひさっアハハハハハ!」
「おうユフィ、ヴィンセントも。久しぶりだな」
挨拶するなり腹を抱えて爆笑し始めたユフィを気にもせず、バレットは笑顔で二人にそう返した。
「着たのか、それを」
「おう。似合うだろ」
ヴィンセントが微妙に目を逸らしながら指摘したのは、バレットが着ているセーターだ。深いグリーンを基調にクリスマス関連の柄が所狭しと編み込まれた悪趣味なそれはどう見ても、ヴィンセントがシドから送り付けられたアグリーセーターと同種のものだった。体格に恵まれたバレットが着ていると模様の圧がすさまじい。ひぃひぃと笑いながらユフィがデンゼルとマリンの横に座る。
そう、バレットの影になってまったく見えなかったが、デンゼルとマリンも同じ席でランチを食べている。しかもユフィにつられて笑いがぶり返している。この三人だけなら微笑ましい光景なのだが、と思いながらヴィンセントはバレットの隣に座った。せっかくの再会だというのに、あまり隣に目をやりたくない。
「子供ウケがいいってのもあるんだが、着てみたら着心地がバツグンでよぉ。12月しか着れねぇのが残念なくらいだぜ」
「……そうか」
「あー、そんな柄のくせにイイやつぽかったもんねぇ」
「そうなのか? こりゃシドにはなんか礼をしなきゃなんねぇな」
思案するようにいかつい顎を撫でながらバレットは言った。こう見えて義理堅い男だ。
「お前は着ねぇのかよ、ヴィンセント」
「着ない」
「なんだもったいねぇな。クラウドは今日着るって言ってたぞ」
バレットの発言に、やっと笑いが収まりかけていたユフィがまたも吹き出す。
「クラウドがアレを? 今着てんの?!」
「いやさすがに帰ってからだろ」
「なぁんだ」
えーでも見たい、写真撮っといてよ、などと無邪気にバレットへ絡むユフィの隣で、クラウドの名を聞いた瞬間子供たちが不安げな顔になるのをヴィンセントは見た。
「クラウドが心配か」
ヴィンセントが問うと、デンゼルとマリンは顔を見合わせる。
「クラウド、すごく忙しいみたいだから。ちゃんと帰って来れるかなって」
「おれたち、もう何日もクラウドの顔見てないよ」
クラウドは家族で過ごす今日明日のために無茶をしているのだが、子供の心がそれで納得できるはずもない。いかにこの二人が大人びていようと、寂しさを無いものにはできない。
「この時期の運送業者は皆、サンタクロースの代理人だ。忙しいのは確かだろうな」
しゅんとした子供たちを前に、だが、とヴィンセントは続ける。
「クラウドは帰ってくると言ったのだろう。信じてやってくれ。お前たちに信頼されていると感じることで、それを裏切れないと頑張る気概も湧く。――お前たちは散々彼の情けないところも見ているから心配なのだろうが、あれでも我々のリーダーだった男だ」
話し方こそ淡々としているが、ヴィンセントの言葉はいつも真摯だ。それを知る子供たちは、そこに込められたクラウドへの揺るぎない信頼を感じとり、こくりと頷く。
「そーそー! クラウドはやると言ったらやるヤツだよ! 前にもさあ、絶対無茶だって言ったのに――」
引き継ぐかのようにユフィが口を挟み、かつての旅のエピソードをまるで武勇伝のごとく語り始める。“英雄”の話が大好物のデンゼルは目を輝かせて聞き入り、軽妙な語り口にいつしかマリンも引き込まれ、笑い声をあげていた。
「はい、日替わりランチ二つお待たせ。ヴィンセントはいつものコーヒーでいい?」
「ああ。ありがとう」
「おいしそー! あ、アタシ今日はカフェオレ!」
「ユフィはカフェオレね」
ティファが運んできたランチプレートにユフィは歓声を上げ、ついでのように彼女へ声をかける。
「ねぇティファ。アタシら年末はウータイに帰るんだ。何か買ってきてほしいものある?」
「あら、そうなの? よかったらいくつか調味料とお酒、お願いしたいかな」
「オッケー、メールしといて!」
察しの良いティファは冷やかすようなことは言わない。ただヴィンセントを見やり、嬉しそうに微笑んだ。ヴィンセントの方も淡い苦笑を浮かべて頷きを返す。
「ん? ヴィンセントもか?」
ティファが上機嫌に戻っていったあと、一拍遅れて気がついたバレットが慌てたように隣を振り返る。ヴィンセントが頷くと、バレットは呆気にとられたような顔でまじまじとユフィとヴィンセントの二人を交互に見た。
「は~、お前らがなぁ。とうとうか」
「なによぉ、文句ある?」
「あるかよ! 良かったなあユフィ」
しみじみとした顔で言われ、ユフィは照れをごまかすかのようにランチプレートへと向き直った。向かいのヴィンセントが微かに笑う。
「もう、ヴィンセントまで」
「いや」
ヴィンセントはパスタをフォークに絡めながら、優しい目でユフィを見た。
「私達は幸せ者だな、ユフィ」
「……うん!」
