【FF7】つるぎの縁

 

ざく、ざく、と足音をたててミッドガルの瓦礫を乗り越える人影がある。
大剣を背負った、陽光を弾く金髪の青年だ。そしてその数歩後ろを、赤いマントの男が音もなくついて行く。

「このへんでいいかな」

人の気配がないことを確かめるように辺りを見回した青年――クラウドは、大剣を無造作に背から外すと地面へと突き刺した。積み重なる瓦礫にひょいと腰掛け、背後のヴィンセントにも座るよう促す。
ヴィンセントが片手でマントを払い、適当な瓦礫に腰を下ろした。同時に、クラウドが放り投げてきた水のボトルを片手で受け止める。

「……それで?」

ボトルを開けるでもなく傍に置き、ヴィンセントは低い声で訊ねた。
自分のボトルをごくごくと呷っていたクラウドが、すっきりとした笑顔で答える。

「前にも言ったろ。俺の、新しい剣の相談」
「本気か?」

ヴィンセントの声音ににじむ呆れを感じ取り、クラウドは苦笑した。
確かに、自分でも馬鹿の所業だとは思っているのだ。メテオ災害からの復興作業の只中で、今や金属素材の値上がりは著しい。このタイミングで新たな大剣をあつらえようだなんて。

「だってアルテマウェポンを大空洞へ持っていくための武器がいるだろ。あんなところで一瞬でも丸腰になんてなりたくないしさ。素材はまあ、他の剣を鋳潰そうかと思ってるんだ。いくつかハイウインドに置きっぱなしだったから、ちょうどいい」
「そうではない。――なぜ私に話す」

ヴィンセントは指で軽く自分の太腿を叩いた。ベルトで留められた革のホルスターと、そこに納まるハンドガンを示すように。

「相談相手を間違えている」
「そんなことないさ。あんたたぶん剣も使えるだろ」

さらりと言うクラウドに、ヴィンセントがわずかに眉を寄せた。
だが否定の答えが返らないのをいいことに、クラウドは笑みを浮かべて言葉を続ける。

俺たち・・・にとって武器は相棒だけど、シドやバレットはそうじゃない。だから、相談相手はアンタで正解なんだよ」

ヴィンセントは考え込むように目を伏せた。
確かに、クラウドとヴィンセントは共通して、己の武器に愛着――執着を持つタイプだと言えるだろう。親友の形見であり己をソルジャーとして形作るよすがになっていた、クラウドにとってのバスターソード。何の変哲もない量産品だがヴィンセントにとってはかつて人であった頃を象徴するクイックシルバーのような、威力が見合わなくなっても手放しがたいという武器は、おそらくシドやバレットにはない。彼らにとって武器はその場を切り抜けるための道具にすぎず、感情を寄せるような対象ではないのだ。
そう考えると、クラウドが新たな”相棒”と呼ぶべき剣の作成に関してヴィンセントの意見を求めるのはあながち間違ってもいない、のかもしれない。
ヴィンセントが一応の納得を得たことを見て取り、クラウドがいそいそと相談の体勢に入る。

「……実はさ、運送屋をやろうかと思ってるんだ。バイクで」
「ほう」

大剣を背負って大型バイクに跨り、荒野を疾駆するクラウドの姿を想像するのはヴィンセントにも容易かった。ゴールドソーサーでの様子を見るにクラウドは、運転そのものはそれなりに好んでいるようだったからだ。確か、自ら運転するバイクなら乗り物酔いも多少はマシなのだと言っていた気がする。
神羅という巨大企業が潰えた今、軍に守られた物流網はほぼ消えたも同然だろう。世界からモンスターを根絶できない以上、クラウドほどに腕の立つ運び屋となれば、需要は引く手あまたに違いない。

「悪くないのではないか。お前なら、どんなところへでも行けるだろう」
「……あ、ありがとう。それで、できれば剣は背負うんじゃなくて、バイクに積みたいと思ってるんだ」

ヴィンセントは目を瞬き、クラウドが地に刺した大剣を思わず見やった。
あれを大型バイクのどこに、どういう向きに積めば、とっさの事態にも引き抜くことができるだろうか。ヴィンセントには正直見当もつかない。
重量が片側に傾くことは避けるべきだろう、というぼんやりとした懸念がやっと浮かぶ程度だ。

「……警棒か、片手剣程度の長さであれば収納のギミックもあるかもしれん。だがそのクラスの大剣となると見当もつかんな。それとも、もっと軽く薄い剣にするつもりか?」
「いや、できれば大きさも重さもこれくらいは欲しいんだ。やっぱりそこなんだよな。ソルジャーの剣技って、大きさがないと威力がいまひとつで」

がくりとクラウドが肩を落とし、ため息をついた。

「バイクに大剣って組み合わせがおかしいのはわかってるんだ。でも俺、ジェノバ細胞の能力でザックスの剣技をコピーしてるだろ。だから何というか、剣技の習得段階をすっ飛ばしてスタートしたみたいなものでさ」
「他の武器には自信がないか」
「そう。特に片手剣なんて頼りなくって絶対折る」

なるほど相談したくなるわけだ、とヴィンセントは思う。
とはいえ機械類に疎いヴィンセントが画期的なアイディアを出せるわけはない。クラウドもそこは期待してはいないだろう。ヴィンセントにできるのはせいぜい、ブレインストーミングよろしくこの会話に付き合い続けることだけだ。
何も語らない大剣を眺めながら、ヴィンセントは口を開く。

「バランスを考えれば、片側に収納するというのも難しそうだな」
「……両側に積む?」
「二本か。予備と考えればなくもないが、重量は倍だぞ」
「うっ」
「バイクである以上、最大積載量はそう簡単に増やせまい。逆算して、武器に許される範囲の重量を二本に分けて両側に積むのがせいぜいではないか」
「一本分の重みで二本積めれば……いや逆か。二本で一本分の……?」

ぶつぶつと呟いていたクラウドが、やがて何かを思いついたように目を光らせた。

「二本、か。……なあヴィンセント、あんた二刀流ってできるか?」

クラウドの唐突な問いにヴィンセントははっきりと眉をひそめた。その顔をクラウドがじっと見る。

「……できなくはないんだな? よし、ちょっと付き合ってくれ」

 

 

***

 

 

立ち上がったクラウドは大剣を引き抜き、一閃した。瓦礫に生えていた鉄筋がすっぱりと斬られ、ぽーんと宙を飛ぶ。
狙いあやまたず眼前へ落ちてきたそれを、ヴィンセントは右手で掴み取った。続けてもう一本が飛んでくる。
クラウドは最後に長めの鉄パイプを斬り取ると、大剣の代わりにそれを構えてぶんぶんと振っている。当然ながらその風切り音はごっこ遊びという域ではない。
ヴィンセントは寄越された鉄筋の長さを確かめながら、ため息とともにクラウドへ問いかけた。

「本当にやる気か」
「手合わせはあんたが一番うまい。頼むよ」

後衛で遠距離武器を扱うヴィンセントは、FFフレンドリーファイアを防ぐために仲間たちの身体の動かし方や癖を熟知している。その優れた観察眼は皆にも知られていて、旅の間も手合わせ相手として重宝されていたものだった。
しかし、その延長上の特技としてヴィンセントがある程度他人の動きを記憶から再現できるという事実は、今のところおそらくクラウドしか知らないだろう。元タークスとして幅広く武器の基礎を修めさせられていたからだと本人は言うが、クラウドが知る他のタークスの誰にも、こんな真似ができるとは到底思えない。
クラウドが手合わせの間合いを取り鉄パイプを構えると、ヴィンセントはやっと諦めたように立ち上がった。マントとガントレットを外し、二本の鉄筋を両手に持つ。だらりと下げた無造作な状態から一瞬にして身を縮め、弾かれたようにクラウドの元へと飛び込んでいく。
普段のヴィンセントとはまったく系統の違う動きだった。低く地を這うような走りから繰り出される矢継ぎ早の斬撃を、クラウドは鉄パイプで弾き返す。ヴィンセントの一撃一撃は重くないものの、片方を防いだ隙にもう片方が死角から襲い来るためまったく気が抜けない。ばらばらに動く刃先に惑わされ、フェイントもないのに目標を見失いがちになるのだ。
クラウドにとっては新鮮な感覚だった。考えてみれば、二刀を扱う人間とは今まで相対したことがなかったように思う。感触として近いのはカマキリ系のモンスターだろうか。二本の鉄筋が描く軌跡を目に焼き付けながら、クラウドはしばしの手合わせに没頭する。
地を蹴ったヴィンセントが、二本の鉄筋を一本の剣のように大きく振り上げた。クラウドは横にした鉄パイプでそれを受け、全体重が乗った重い一撃をなんとか撥ねのける。
吹っ飛ばされたヴィンセントは宙で一回転して瓦礫に着地し、大きく息を吐いて鉄筋を地面へ放りだした。終了の合図だ。しぶしぶ構えを解くクラウドをじっとりと睨みながら手を摩っている。

「ありがとう、ヴィンセント」
「……こんなものが参考になるのか」
「うん、すごく」

ヴィンセントは元々座っていた瓦礫へと戻ると、置きっぱなしの水のボトルを開封した。クラウドと直に打ち合った衝撃がいまだ手にびりびりと残っている。手加減されていても、現世界最強剣士の相手など、ヴィンセントにはやはり荷が重い。
対照的にクラウドは何やら光明を得たような様子で、少し離れた場所に立ち自分の大剣を片手で構えたり振ったりしている。
ヴィンセントがその様子を見守りながら装備を整え、水を飲み終えた頃、大剣を背に納めたクラウドは晴れ晴れとした表情で戻ってきた。

「合体剣ってどうだろ」
「……何と言った?」
「合体剣。二本の剣を組み合わせて一本に束ねるギミックがあれば、重さが足せるだろ」

つまりバイクには軽めの大剣を二本左右に載せ、降りて振るう際にはそれらを束ねて一本の重い大剣にする――という意味らしい。
実際にそんなギミックが可能かどうかはともかくとして、想像の上では、クラウドの無茶な要望を満たす案だとは言えた。

「それに、軽い剣ならさっきのあんたみたいな二刀流もイケるかも」
「大剣でか?」

ヴィンセントの声音に珍しくあからさまな懐疑と呆れが入り混じった。一本があの大剣の単純に半分の重さだとしても、それを二刀で振り回すには驚異的な膂力と体幹が必要だろう。だがクラウドは目を輝かせ、まるで新たなおもちゃを見つけたかのようにやる気をみなぎらせている。
こうなってはもう止められまい、とヴィンセントはため息とともにひとつだけ忠告した。

「……剣どころかバイクも完全な特注になるぞ。それがわかっているなら、お前の好きにするがいい」

うぐっ、という呻き声には気付かなかったふりをして、ヴィンセントは瓦礫から立ち上がりマントを払った。用は済んだと言わんばかりに拠点へ向けて歩き出すと、クラウドが慌てて追いかけてくる。

「ヴィンセント」
「……何だ」
「あんた、もう行くんだろ」

ヴィンセントは歩調を緩めず、無言を答えとした。背後でクラウドが苦笑したような気配がある。

「リーブがそろそろ復興のための組織をちゃんと立ち上げるってさ。あんた意外と有能だからな。早く行かないと、いつの間にか組織図に組み込まれててもおかしくないぞ」

旅を共にしたあのぬいぐるみの本体ことリーブは、今やただ一人残る神羅の幹部として、その責任を果たすべく奔走していた。メテオが消えてからこれまで、仲間たちがミッドガルで救助や復興作業の手伝いをしていたのも、形としてはリーブの要請に応えたものだ。
だがそれも、一段落がつこうとしていた。厳密には復興作業に終わりなどないのだろうが、そこに住まう人間が自ら動けるように体制が整いさえすれば、余所者の手は一旦引くべきだとヴィンセントは感じていた。
良くも悪くもしがらみを持たないヴィンセントは、面倒なことが起きる前に、誰にも何も告げず旅立つつもりでいたのだ。それを読まれていたとは、さすがはリーダー殿と言ったところだろうか。
彼が運送屋という将来を考えていたことを、こうして知れたのは偶然だった。だが、ヴィンセントはそれを嬉しく思っている。
皆、瓦礫の中から歩き出すのだ。生き残った者の責務として。

「この近辺に避難民で街をつくることになるだろうってさ。たぶん俺たちはそこに居つくと思うから、あんたもたまには顔出してくれよ」
「……考えておく」

ざく、ざく、と足音をたてて、二人分の人影は瓦礫を乗り越えていく。
かつてのミッドガルでは見られなかっただろう青空は、夕焼けに変わろうとしていた。

 

 

――次に再会した時、二本どころか六本にまで数を増やして完成していたクラウドの合体剣と、それを納める無茶の塊のような大型バイクフェンリルを目にしたヴィンセントが本気で言葉を失ったのは、また別の話である。

 

POSTSCRIPT:つるぎの縁

 

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