【FF7】Wonderful days

 

「じゃあ今日は、ヴィンセントの誕生日を祝して」
『カンパーイ!』

恒例となったクラウドの掛け声に合わせ、一斉にグラスが掲げられた。
”本日貸切”の賑やかなセブンスヘブンには英雄たち全員の顔が揃っている。最近にしては珍しいことだった。
本日の主賓――という飲み会の名目にされたヴィンセントが、ソファ席で穏やかにワイングラスを傾けている。その隣にシドはどかりと座り、ヴィンセントの肩に腕を回してにやにやと囁いた。

「どうだぁ? 三十路の仲間入りした気分はよ」

赤い瞳がシドを見やり、ゆるく細められる。

「――嬉しいよ」
「……ま、そうだよな。お前は特に色々あっただろうが、やっぱ生きてて良かったろ」

ぐしゃりと髪を掻き回されたヴィンセントが、苦笑しながら身を捩った。
27歳から時を刻まぬまま数十年を過ごしていたヴィンセントの身体は、ディープグラウンドの騒動によりカオスを失ったことで、再び時を刻み始めた。かつての彼が生年月日と外見がかけ離れていくことを理由に身分証を取りたがらず、ひと悶着を起こしていたのももはや懐かしい。
たった二年や三年でその外見は変わりはしないが、纏う雰囲気はずいぶん柔らかくなったものだとシドは思う。本人がふっ切れたこともそうだが、やはり傍に居る人間の影響はばかにならない。

「とは言え、実年齢から考えればサバの読みすぎにもほどがあるからな。三十路と言われるのも、むしろ罪悪感が強い」
「寝てた時間はいっそ引いとけよ。だいぶマシになんだろ」
「だがあれがなければ、今こうしていることはなかっただろうから」

ヴィンセントの口ぶりからは、彼がその過去に既にひとつの区切りをつけており、もはや囚われてはいないことが窺えた。
人はこうして未来に目を向け、思い出を乗り越えていく。それはかつてロケットの打ち上げ失敗を引きずっていたシドが、旅の間に教えられたことだった。旅を終えてもひとり永きを生きるはずだったヴィンセントに対して、仲間たち皆が教えたいと願っていたことだった。
もっとも、一人の女のため過去に生きていたヴィンセントの視点を変える最大の要因となったのは、結局これまた一人の女だった。ヴィンセント・ヴァレンタインとはつくづく”運命の女”に振り回される星の下であるらしい。

「そこ! イチャイチャしないでくれますぅー!? シド、いつも言ってるけどヴィンセントはアタシの恋人なんだっつの!」
「していない」
「なんだなんだ、うらやましいのかよ?」

駆け込んできたユフィがなぜか慌てたようにシドへ向かって食ってかかり、にやにや笑いを浮かべるシドが応酬する。セブンスヘブンの飲み会では毎度おなじみの光景だ。
間に挟まれたヴィンセントの否定は誰にも聞き入れられることなく宙に消え、ため息とともに一杯目のワインが干された。

 

 

その賑やかな光景を、ティファはカウンターのスツールから眺めていた。
あの懐かしい旅の頃、こんな未来があるだなんて誰が思っただろう。人の心の奥底を魔法のように見抜いていたエアリスでさえ、あのユフィとヴィンセントが恋人になるだなんて予想できなかったのではないだろうかと考え、少し可笑しくなる。
一年ほど前の、あれは特に理由もなかった飲み会の日のことをティファは懐かしく思い出す。
共にWROに所属しているユフィとヴィンセントがセブンスヘブンへ連れ立って来ること自体は、もう珍しくはなかった。ユフィの片思いを知っていたティファはひっそりと彼女を応援していたのだが、ヴィンセントの方がユフィをどう思っているかは全くの未知数だった。そもそもヴィンセントの過去を知る面々は、彼に対して恋愛事の話題を振ることなどできなかったからだ。
だがその日、ドアベルを鳴らして勢いよく入ってきたユフィは、

「はいはい注目ー! アタシとヴィンセント、結婚を前提にお付き合いすることになったからヨロシクね!」

と叫んでセブンスヘブン中を驚愕の渦に陥れたのだった。
嬉しそうに頬を染めて満面の笑みを浮かべているユフィの後ろで、無表情のままよろめいたヴィンセントが閉じたドアに肩をぶつけていたことまで、ティファは鮮明に覚えている。
一体何がどうしてそうなったのか。仲間たちから一斉に詰め寄られたり心配されたりしたヴィンセントは、だが断固として口を割らなかった。しかしそれ以降、彼が急速に人間味を取り戻していったのは誰の目にも明らかだ。ユフィの方もヴィンセントに影響されてか落ち着いた思慮深さを見せることが増え、大人の女性として羽化するいいきっかけだったに違いないとティファは思う。

生きていれば、人は変わる。
そして世界も。

セブンスヘブンにこうして皆が集まる機会も、だんだんと少なくなっていくのだろう。まだティファとリーブしか知らないことだが、来年の今頃にはもう、ユフィとヴィンセントはエッジに居ない。WROを辞め、ユフィの故郷ウータイへと戻るのだ。
ウータイ総領の跡取りであるユフィは責任ある地位に就き、ヴィンセントはそれを支える立場となる。時期的にはゴドーに強く求められてのことだそうだが、ウータイのために活動したいというのは元々ユフィの願いでもあった。そしてヴィンセントは、最初からそれを知っていた。
ティファにとっては寂しくなるが、二人にとっては新たな門出だ。電話も飛空艇もある世の中で、今生の別れというわけでもない。この考え方もまた、あの危険な旅の間にはできなかったものだった。
今は亡き仲間の名を冠した自作のカクテルを手にティファはつくづくと今の平和を噛みしめ、その礎となったものたちへと思いを馳せた。

 

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