ユフィ・キサラギさんはテーマパークでデートしたい。(7本編中)
コココン!という矢継ぎ早のノック音に、ヴィンセントは形の良い眉をひそめた。
誰が来たかなど、誰何せずともわかろうものだ。
小さなため息をつき、旅装を解く手を止めて戸口へと向かった。その間にもノックは攻勢を増していく。
ヴィンセントが扉を開けると、ゴーストホテルの悪趣味な廊下ではユフィがちょうど大きく手を振り上げたところだった。長身の男に見下ろされて威圧でも感じたのか、彼女は呆けたような顔で、大きな目をまるくして瞬きを繰り返している。
「……何用だ」
「えと、えっ、ヴィンセント?」
「……シドに用か?」
「いやいやいや、用はアンタになんだけど……マントとか、どしたの」
既にいびきを掻いている同室者が目当てというわけではないらしい。どことなくぎくしゃくとした態度のユフィにヴィンセントは微かに首を傾げ、答える。
「シャワーを使うところだった」
「おおっとギリギリセーフ。ね、ちょっと歩きたいから付き合ってよ」
「断る」
「なんでさ! せっかくのゴールドソーサーだよ? ここまで来といて遊ばないなんて、入園料の払い損だろ!」
「そもそも遊ぶことが目的ではなかっただろう。別に止めはしない。他の誰かと行けばいい」
「それがさぁ」
今まで激しく駄々をこねていたのが嘘のように、ユフィは一瞬で不安げな表情になる。
「エアリスがいないんだよ。ティファは疲れちゃってどうしても気分じゃないって、謝られちゃったし」
「いない?」
「クラウドもいないの」
「……そこまでわかっているならそっとしておけ」
「やーだー! アタシだって遊びたーい!」
再び子供のように騒きだすユフィを、ヴィンセントは呆れの視線でじっとりと見下ろした。
十中八九、エアリスとクラウドは共に園内を回っているに違いない。旅に加わって間もないヴィンセントは、ティファを含めた彼らの関係の機微をよく知るとは言いがたいが、そこに他人が首を突っ込むべきでないことはわかる。
ここでこの忍者娘を解き放てばどうなるか。
予想しうるトラブルの数々を思えば、当のユフィがこうしてヴィンセントに同行を求めてきたのはむしろ僥倖とも言えた。
誰かが、このじゃじゃ馬の手綱を握っていなければならない。
「……わかった」
深いため息と共に吐き出されたヴィンセントの返事に、ユフィが顔を輝かせる。
「いいの?!」
「お前のような年頃を一人でうろつかせる訳にもいくまい。少し待て、服を」
ヴィンセントは室内にとって返そうとしたが、興奮に頬を赤くしたユフィに腕を掴まれ引き止められる。
「そ、そのままでいいよ! 顔がよく見えるし」
「顔?」
「アタシの身長からだと普段アンタの顔ってほぼマント」
「……なるほど」
先程からの視線はそういう理由か、とヴィンセントは腑に落ちる。
普段から屈んで対応するほどの身長差ではなかったことが仇となっていたようだ。
「鍵を取ってくる」
「あ、うん」
ヴィンセントが少しだけ意識して表情を作ると、ユフィは慌てたように手を離した。おとなしくなった彼女を廊下に残して、扉が閉まる。
ヴィンセントは急いで室内へ戻ると、起きる気配のないシドを横目に、部屋の鍵と財布をポケットに突っ込んだ。
鏡を一瞥し、外れていた首元の釦を留め直す。入園する際に流し見た園内地図とイベントスケジュールを記憶から引っ張り出し、エアリスが行きたがるだろう場所を手早くピックアップした。
どうにかして、彼女らとユフィを鉢合わせないように立ち回らなければならない。エアリスとユフィの、興味の方向性が違っているのは幸いだった。
まずは――イベントスクエアから、ユフィの興味を逸らすことからだ。
ヴィンセントはガントレットのない左手にグローブを嵌め直すと、己に課せられた任務を遂行すべく、扉へと歩き出した。
