ユフィ・キサラギさんは散歩でデートしたい。(DC後)
エッジはにぎやかな街だ。いつでも何かが建設中で、かつてのミッドガルに次ぐ勢いで人と店が多い。街並みは有り合わせの建材のせいでごみごみして見えるが、区画自体は基本に沿って分けられているので迷うこともさほどない。主導するWROのトップが街づくりの専門家であるからだろう。
WROに職員として籍を置くユフィは、エッジに部屋を借りている。色々な条件のもと吟味した部屋はWRO本部から離れた、街外れとも言える場所だ。とはいえユフィの脚をもってすれば、山も川もない街中の通勤に苦労などあるはずもなく、ユフィはむしろ毎日のその道のりを楽しんでいた。
「あ、ごはん屋さんができてる。ランチのみかあ、へぇ~」
気の赴くままにユフィは通勤ルートを変える。人の出入りが激しいこの街では、数日見ない間に新しい店ができていたりするのは日常のことだ。逆も然りで、週末にでも行こうと思っていた店が突然消えていたりもするので油断がならない。
新しいもの好きのユフィとしては、興味を引かれたいろいろを片っ端から試してみたい気持ちでいっぱいだ。だからこうして歩くだけでなく雑誌や同僚の口コミなどの情報収集にも余念がないし、仕事が休みになれば実際にショッピングしたり食べ歩いたりと、毎日本当に忙しい。
だが最近は、自分でもちょっと、その方向性が変わってきたなぁと感じている。
(あ、これ。ヴィンセントが好きそう)
店頭に掲げられたメニューを通りすがりに覗き込み、ユフィはそう思った。カオスが消えてから、ヴィンセントは明らかに食事の量が増えた。元々何を食べても文句など言わない男ではあるが、一緒に食事をとる機会が増えれば、おのずとその好みも知れてくる。
(ふーん、いいじゃん。メモっとこ)
ユフィは携帯電話を取り出し、店名が入るように工夫してメニューの写真を撮った。フォルダに分けてから、次に休みが被る日はいつだったかと記憶を探りながら跳ねるように歩き出す。
先日教えてもらったスイーツが評判のカフェの記事、男物の服をスタイリッシュに着こなすマネキンのショーウィンドウ、ヴィンセント行きつけの古書店の定休日を羅列した張り紙、最高の見晴らしを約束された高層の建築現場。『デート用』と名付けられたそのフォルダに詰まっているのは、晴れて恋人となった男に世界を楽しんでほしいと願う、ユフィの真心だ。
そんな今までの写真を見返しながら歩いていると、ふと、少し先によく知った気配を感じた。瞬時に携帯をしまって、ユフィは小走りに角を曲がりその人物へと駆け寄る。
「ヴィンセント! ぐーぜん!」
「おはよう」
信号待ちをしていたらしいヴィンセントは、驚いた様子もなくユフィに向かって微笑んだ。
こんなところで会えるなんて、とユフィは幸先の良い一日のスタートに踊り出したい気分になる。
信号が変わり、二人は連れ立って街の中央部へと歩き出す。
「ヴィンセント、どっかからの帰り? WRO行くのにこんなとこ通らないよね」
「いや、家からだ。早く起きたから、散歩のつもりで少し歩いていた」
「ヴィンセントも? エッジって意外と散歩のしがいがあるよねぇ。大きいし、お店とかすぐ変わっちゃうしさ」
話しながらユフィが少し思い切って手を伸ばすと、ヴィンセントはすぐに手を繋いでくれた。
昔から仲間として仲は良かったとユフィは思っているが、こうした恋人らしい振る舞いは、いざやってみると全然別物なのだと今はよくわかる。何といっても充実感が違う。
「お前は、この辺りはよく通るのか」
「ううん久しぶり。だから今日は超ラッキーってカンジ」
「あちらに、お前の好きそうな雑貨の店ができていた」
「え、ホントに? 知らないかも!」
全く心当たりのない新情報に、ユフィの顔が輝いた。見下ろすヴィンセントが満足げに薄く笑う。
「帰りにでも寄ってみるか」
「うん! あ、そうだ。次のお休みいつ? さっきねぇ……」
ほぼ毎日顔を合わせているというのに、話は尽きない。
職場まであと15分。平凡な、しかし新鮮なデートコースを二人はたっぷりと楽しんだ
