1.カレンダー
この部屋のカレンダーはいつ見ても賑やかだ。
世間の大きなイベントはもちろんのこと、誰かの誕生日、何かの予約時間、ショップのセール期間から買い物メモまで、カラフルなペンを使ってこまめに書き込まれている。日付に花丸やハートがつけられている箇所も多く、部屋の主の楽し気な毎日が、まるで見ているだけで伝わってくる気がする。
「ヴィンセント、はいコーヒー。ん、どしたの? なんか嬉しそうな顔してる」
「……いや、カレンダーを見ていただけだ」
「あ~かわいいでしょあれ! やっぱ子猫って最高だよね!」
ユフィが満面の笑顔で指したのはヴィンセントが見ていた日付部分ではなく、その上半分を占める写真の部分だった。12月の絵柄は、赤いサンタ帽をかぶせられてきょとんとしている縞柄の子猫だ。
いそいそとヴィンセントの隣に座ったユフィは、カフェオレのマグカップを傾けながら熱く語り続ける。
「このカレンダーは当たりだったなー。毎月違う猫の写真でね、それがまたどれもかわいくってさ。次もおんなじシリーズのやつ売ってたらいいんだけど」
「カレンダーを、わざわざ買っているのか」
「そうだよ?」
つい聞き返してしまったヴィンセントに、ユフィは写真の子猫のような顔で首を傾げたのち、その意味を解して笑った。
「ああ、確かにアタシだって粗品でもらったりはするんだけど。でも毎日見るもんだから、やっぱ自分好みの絵とか写真とかの方がさ、モチベが上がるでしょ」
「モチベ」
「モチベーション! 励まされたりやる気が出るでしょってこと!」
なるほど、とヴィンセントは呟き、コーヒーを口にした。濃いめのブラックに少しだけ砂糖を足したこの味は、淹れたユフィ当人は決して好まないだろうものだ。それをユフィの自宅で当然のように供されることに、ヴィンセントは何とも言えない幸せを感じている。
たったそれだけ。されどそれだけ。ユフィは日常に小さな幸せを見つける天才で、それを常にヴィンセントに分け与えてくれる。
「今日は」
「ん?」
「次のカレンダーを探しに行くか」
「お、いいね! ヴィンセントもついでになんかイイやつ探しなよ。殺風景なお部屋に癒しってもんをさ」
「めくり忘れたまま月を跨ぎそうな気がする」
「そんなに見ないことある?!」
予定を全て記憶しているがゆえに一周回ったずぼらなことを言い出すヴィンセントを、ユフィは信じられないと言いながら楽しそうに笑った。
コーヒーの香りが漂う暖かな部屋で、ソファに寄り添う二人の休日は始まったばかりだ。
連れ立って訪れたカレンダー売り場で、”ジェノバ戦役の英雄シリーズ”なる全八種のそれを目にしたヴィンセントが眉間にしわを寄せるのは、また別の話である。
