【FF7】VYアドベントカレンダー 12/07~12/12 - 3/7

8.アイス

 

「あー、めちゃめちゃ疲れた!」
「おかえり」
「ただいま!」

数日間の出張任務に出ていたユフィにとって、久しぶりの我が家だ。
そこにおかえりと出迎えてくれる相手がいる幸せを噛みしめながら、暖房の効いた室内へと入る。ああ隙間風のない建物、そして文明の利器よ!

「ひどい目に遭ったらしいな」
「ホントにね! こんな季節にサバイバルとかマジしゃれになんない」

体温低めのはずのヴィンセントの手が温かい。つまりユフィが冷えているのだ。任務先ほどではなかったが、エッジもいつの間にかすっかり冬風に変わっていた。
大氷壁よりマシ、と呪文のように唱えながら寒さに耐えたこの数日間のことは思い出したくもない。なんとか結果を出して終わらせてきたものの、誰かが後々似たトラブルに遭うかもしれないと思えば、詳細な報告書が必要だろう。それもまた気が重かった。ユフィはいまだに報告書が苦手なのだ。

「風呂をいれてある」
「えっホントに? うれしい!」

ヴィンセントの一言はユフィの重たい気分を一瞬で上向きに変えた。思わずヴィンセントに抱きつ……きたくなったがぐっとガマンして、勢いを殺しきれずにユフィはたたらを踏んだ。だってたぶんちょっと、汚れているので。
ふっと笑ったヴィンセントに手を出させ、代わりに無理やりハイタッチしておく。
ウータイ人のユフィはお風呂文化を愛している。だからこの部屋も、それ用のバスタブが付いているところをわざわざ探して選んだ。
エッジのような都市において決してコスパの良くないバスタブは、たまの贅沢扱いだ。だがあれだけ寒い目に遭って苦労してきたのだ、今入らないでいつ入る。沸いていると聞いてしまったのだから今すぐ入らずにいられない。まさに大正解、神対応、ヴィンセントのファインプレーだ。

「ゆっくりしてこい」
「ん、ありがと」

ユフィは荷物も面倒事も何もかもをその場に放り出して、鼻歌交じりにバスルームへと飛び込んだ。

 

 

今回ばかりは雑に髪と身体を洗って、ユフィはお待ちかねのバスタブに沈み込む。

「あ~~~……」

肩どころか鼻まで浸かって、全身を暖かさに包み込まれる幸せを享受する。
ウータイを離れてからは否応なしにシャワー中心の生活だが、こうして疲れている時はやはり風呂が一番だ。ニンジャのツライ修行だって風呂があったから乗り切れたものなんじゃないかと今は思う。もしかしてウータイの強さってそこが肝心なのかも……などと風呂を讃えるあまりにおかしなところへ飛び始めていた思考が、ノックのような物音に引き戻された。

「ユフィ」
「んあ、どしたの?」

お湯から顔を上げると、バスルームのドアが少しだけ開いて、冷たい空気が吹き込むとともにヴィンセントが顔を覗かせた。ぬっと片手が伸びてきて、何かを差し出す。

「ええ?」

ユフィが疑問符を浮かべながらそれを受け取ると、ヴィンセントの笑みが一瞬だけ見え、すぐに引っ込んでいった。ユフィの手に冷たい感触だけを残して、何事もなかったかのようにドアが閉まる。

「なに……ええー?」

遠ざかっていくヴィンセントの気配を気にしながらも手の中を見たユフィは、その意外性に驚きと笑いの入り混じった声を上げた。
なんとアイスクリームだ。掌に乗るほどの小さなカップは、値引き対象外で有名なちょっとお高いメーカーのもの。しかもユフィが見たことのない期間限定のストロベリーミルフィーユ味。抜かりなくスプーンも添えられている。

「お、お風呂でこんな……ゼータク! 許されるのぉ?!」

あははは、とたまらず笑いだしながら、ユフィは湯に沈み込んだ。無論アイスを湯につけるようなへまはしない。行儀悪くスプーンを口にくわえて、いそいそとカップの蓋を開ける。
さすがのウータイにも風呂で飲食する文化はない。強いて言えば露天風呂で酒を呑むというのは近いかもしれないが、ここは露天でも何でもない、アパートの狭いバスルームだ。
湯気に当てられたせいかほどよく周りが溶けかかったアイスクリームに、スプーンがさっくりと突き刺さる。

「んんー、おいひい……」

ぽかぽかに温められた身体に、つるりと冷たいアイスクリームの味が沁み込んでいく。濃厚で甘酸っぱいストロベリーアイスと、冷凍されていてなおパリパリとした食感のパイ生地フレークの素晴らしいハーモニーが、ユフィの脳裏に最後までこびりついていた疲労を蕩かしていくようだ。
小さなカップはあっという間に空になる。今は物足りないが、それでいいのだ。風呂からあがれば、ヴィンセントが食事の支度をして待ってくれているのだから。

「もー、アイツどこでこんな悪い遊び覚えたのさ!」

ユフィはにまにまと抑えきれない笑みに顔を綻ばせ、バスタブの中で手足を伸ばすと力強く立ち上がった。
そこにもう、先程までの疲れ切り凍えていた彼女の面影はなかった。

 

送信中です