9.雪
人通りの多いエッジの街中を歩きながら、吹き抜けた冷たい風にユフィは思わず首をすくめた。
「さぶさぶっ。すっかり冬だねぇ」
「そうだな」
ユフィの隣でそう答えるヴィンセントは、本当にそう思っているのか疑わしいほどに夏も冬もさして態度の変化というものがない。今も薄手のコート姿だが、周囲を歩く人々はユフィも含め、既にもう少しぶ厚いものを着ている。
「なんかヴィンセントって全然寒くなさそー。寒いのも”あまり感じない”の?」
「どうだろうか」
かつてヴィンセントが暑さに対してそう返したのを踏まえるユフィの問いに、ヴィンセントは少し考えこむ様子を見せた。
あの頃、ヴィンセントはまだ人外の身体だった。気温の寒暖に人よりも鈍かったのは確かで、コスタでもアイシクルロッジでも、同じ格好で特に不便も感じなかったものだ。
今はどうだろう。寒さを感じないわけではない。その証拠にちゃんと冬物の衣服を着ている。だが季節の変化を感じ取れているのかと問われれば、それはヴィンセント当人がどう感じているかというよりも、隣にいるユフィがいちいち変化を知らせてくれるからだ。
「……答えにくいこと聞いちゃった?」
「いや、考えていただけだ。すまない」
「謝んないでよ」
「すまない」
反射的に謝罪を返してしまい、ヴィンセントは苦笑する。
「真剣に考えてみたのだが」
「うん」
「以前よりは寒暖を感じていると思う。寒くなった、とも思っている。だが私は元々アイシクル地方の生まれだからな。お前よりはいくらか寒さに強いのかもしれん」
「えっ、ミッドガルの人じゃなかったんだ?」
「意外か?」
「意外ってゆーか、そういう昔の話、聞いたことなかったから」
「私も、久しぶりに思い出した」
ミッドガルへ出てきてからの人生がかなりの激動であったためかもう記憶はおぼろだが、遥か遠いその思い出は、いつも白い雪とともにあった気がする。
そうだ、銃の扱い方を覚えたのもあの白い森だった。食うために獲物を狩り命を繋ぐ、かつてはそのために磨いた腕であり技だったのだ。
珍しい機会だと思っているのだろう、矢継ぎ早に質問を重ねて昔を聞き出そうとしてくるユフィを適当に宥めながら、ヴィンセントはふと空を見上げた。
青空にかかる灰色の霞。きんと張りつめた懐かしい空気は、まるで何かが零れ落ちる寸前の。
「急ごう、雪が降りそうだ」
肩を抱いて促せば、寒さが苦手なユフィは大げさに震えあがって足を速める。
二人の後ろ姿が小さくなったころ。空からひとひら、白いぼたん雪が舞い始めた。
