[05.フィスキオ(くちぶえ/イタリア) 弾む・歩幅・つばめ
WRO本部を歩くユフィは見るからに上機嫌だった。隠しようもなく笑み崩れた顔は、今に口笛でも吹き始めそうなほど。弾む軽い足取りで、彼女は人の多い廊下をつばめが飛ぶようにすいすいと進んでいく。
「シェルクー、お昼だよ」
「ええ、行きましょう」
とある部署の前で、ユフィは室内へ声をかけた。待ち合わせていたのはシェルクだ。年始の挨拶などを交わしながら食堂へと向かう二人を、職員たちが暖かな目で見送る。
シェルクの外見はここ数年で確かな成長を刻んでいたが、それでも実年齢にはまだまだ届かない。跳ねるように歩くユフィと、淑やかな歩幅でそれを追いかけるシェルク。同年齢であるはずの二人の後ろ姿は、似ていない姉妹のようでもあった。
「その様子だと、里帰りは上手くいったんですね?」
ランチセットのトレイを持って食堂の席に着いてから、シェルクは一応そう問いかけた。
割り箸を割ったユフィがにんまりと笑い、片手でピースを作る。
「ばっちり」
「……あっ」
シェルクは驚きについ目を瞠った。
その視線が注がれているのはピースでアピールされた右手ではなく、一時的に箸を持ち換えたユフィの左手だ。
薬指に輝く、見慣れない指輪。
トップの小さな宝石は、彼女の恋人が持つ特徴的な瞳と同じ色だ。その位置的にも間違いなく婚約指輪と呼ばれるものだろう。
「……とうとう、ですか」
「そーだよ! もう長かったのなんのって」
ことさらに見せびらかすような動きこそしないが、シェルクの反応に気を良くしたらしきユフィは頬を染め、とろけるような笑みを浮かべた。
道理で機嫌が良いはずだ。ユフィの方がこの様子では、シェルクがどれほど普段通りを装ったところで到底隠し通せたものではないだろう。おそらく所属部署では午前中でバレたに違いなく、人の口に戸は立てられない。
部署に戻れば質問攻めにされるだろうと思いながら、シェルクは礼儀正しく一旦フォークを置いた。
「おめでとうございます。……本当に良かった」
「ありがとね! んでその後ろ半分はヴィンセントに言ってあげて。たぶんそーゆーやつでしょ?」
「そう、ですね」
ウインクするユフィは不思議なところで本当に敏い。
胸の内に、自分だけのものではない暖かな安堵が広がるのを感じながら、頷いたシェルクは再びフォークをとり上げた。
